【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第14回/排泄に困難を抱えている人の「災害時のトイレ」について考える

第14回 排泄に困難を抱えている人の「災害時のトイレ」について考える

 今回は、前回のテーマ「災害時のトイレ」の第二弾として、排泄に困難を抱えている人の対応を取り上げます。 普段、排泄に困っていない人も、どうか一緒に考えてみてください。 

 というのも、災害が起きたときには、困難を抱えている人もそうでない人も、避難所などの同じ環境で過ごす可能性が高くなります。そして、誰もが自分のことに精一杯で、気持ちに余裕を持てない状況になっています。だからこそ、平時の今、少しだけでも想像力を働かせてみてほしいのです。 

「排泄に困難を抱えている人」と聞くと、障害者や高齢者を思い浮かべるかもしれませんが、それだけではありません。疾患などで排泄のコントロールが難しい人や幼い子どもはもちろん、外国人など必要な情報を受け取りにくい人たちも、災害時のトイレに不安を感じるはずです。 

 皆さんも程度の差こそあれ、「電車の中で突然腹痛に襲われた」「長時間トイレに行けず、もれそうだった」「生理になったかも?」と冷や汗をかいた経験があるのではないでしょうか。災害は、いつ、どんなタイミングで起こるかわかりません。つまり、誰もが災害時には排泄に困る可能性があるのです。 
 また、災害時には、どんなトイレが使えるか、わかりません。 

体の不自由な人でも使えるような工夫がみられる

 先日、東京都内で、障害のある人もない人も参加しやすく配慮された福祉防災訓練に参加し、「マンホールトイレ」を見学しました。これは、下水道管路にあるマンホールの上に便座などを設けた、災害用の簡易トイレです。このときは、会場となった施設のプールの水を利用した水洗式で、洋式便座に手すりが付いているタイプ。「扉」はファスナーで開け閉めできるため、プライバシーも守られる設計でした。体に不自由がある人にはありがたい設備ですが、ファスナーの開け閉めなど手が触れる部分が多く、視覚障害のある人は便座の位置なども手で確認することがあるため、災害時に手を洗う水まで十分に確保されるかが気になりました。 

 仮設トイレは和式の場合も想定されます。足腰に不安のない人が和式トイレを使えば、洋式トイレや障害者用トイレを必要な人に譲れます。また、トイレの使用が分散されることで一つの設備への負担が減り、結果として感染症のリスクを下げることにもつながると考えられます。 

男女共用の和式トイレがずらり

 和式の仮設トイレはスポーツイベントなどでも見られますし、一部の公共性の高い施設や商業施設にも設置されている場合があります。元気な人は、たまには和式トイレを使ってみるのもいいかもしれません。私も時々、意識して使うようにしています。 

 排泄に困難を抱える人にも、「自助」としてできる備えがあります。まずは、自分の状況を周囲の人に伝える勇気を持ってほしいのです。娘が盲学校の高等部に通っていたころ、先生がこんなことをおっしゃいました。「自分でできることを増やすのは大事。でも、自分の状況と援助してほしい内容を、謙虚に的確に伝える方法も学んでほしい」と。 

 なるほど、と思いました。これはとても大切な視点です。しかし、どちらかというと日本人が少し苦手とすることでもあります。特に、周囲から見てわかりにくい障害のある人にとっては、伝え方も難しいと思います。でも、「〇〇に困っている。こうしてほしい」と声に出すことは、「自助」ひいては「共助」への大きな一歩になると考えます。できれば、文章にして書いてみたり、実際に声に出して練習してみたりすると、いざというときに役立つかもしれません。 

バンダナを使って知らせるという方法もある(視覚障がいサポート団体FANeyes手づくりのオリジナル災害時支援バンダナ)

 また、障害や疾患があって災害時の排泄に困難が予想される人は、防災訓練への参加をおすすめします。地域によっては、「だれでも防災訓練」「福祉防災訓練」など、障害のある人に配慮した訓練もあります。日ごろから地域の人に、自分の困難や必要な配慮について知ってもらうことも、大切な備えのひとつです。 

「トイレに行きたい! でも、どこにあるかわからない」という外国の方や小さな子どもたちは身振り手振りで! きっと伝わるはず。身振りに気づいたら周囲の人も察して案内してあげましょう。 

 最後にひとつ、この回で覚えてほしい手話があります。中指と薬指、小指を立てて「W」を、親指と人差し指で「C」を作って「WC=トイレ」です。覚えやすいでしょう? 親指と人差し指を離すのを忘れずに。でないと、「オッケー」になってしまいます。 

 聴覚障害は周囲から気づかれにくく、誰かに話しかけるのをためらう人もいます。だからこそ、多くの人に覚えてほしいと思います。 

 次回は、「地球永住計画」を遂行中の探検家で医師の関野吉晴さんに、ご自身が初監督をつとめた映画『うんこと死体の復権』についてお話を伺ったので、特別編としてインタビュー記事を掲載する予定です。 

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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